イスタンブール 2
ラハフは、私が到着した次の朝にガジアンテップから飛行機でイスタンブールまで来てくれた。私の滞在に合わせて市内のホテルを取っていた。私とヌールは、街の中心にあるタクスィム広場でラハフと再会した。
その時、私は何を言ったか覚えていないし、ラハフから何を聞いたかも覚えていない。私たちは抱き合った。特別な言葉は思いつかなかっただろうし、言葉は再会するその時に必要なものでもなかったと思う。ヌールと空港で再会した時も同じだった。
再会から二分後には、もうかつてのように私たちは話していた。最初に入ったカフェで、私たちはいろんなことを思い出して、話した。
「ヌールは教室でいつも新聞を読んでいただろう?」
「読んでたのは、星座占いだけ」と、ヌールが答えた。
「嘘?」
「先生、知らなかったの?」
ラハフは知っていたらしい。
「てっきり政治経済のところを読んでると思ってた。そういう顔をして読んでいた」
「先生、シリアの新聞で政治経済を読んでもしかたがない」
そう言って、ヌールが笑った。
「あ、そうか」
「ラガドとかハザールとかヘバは、よくヌールに『今日の私の運勢どう?』って聞いてたよね」
シリアの新聞で一番信憑性があるのは、星座占いだったらしい。
ボスボラス海峡を遊覧する船に乗って、私たちはぼんやり景色を眺めていた。ヌールは海峡から見える宮殿や城壁のことをいろいろ知っていて、私とラハフに教えてくれた。
高級別荘地が見えた。白い別荘のプールサイドで、腹の突き出た水着姿の初老の男性が長椅子に座って寛いでいた。
「映画に出て来るような典型的金持ちの姿だな」と、私は言った。
「私、お金持ちって大嫌い」
ラハフが言った。ストレートな言い方が、とてもラハフらしいと思った。太陽が照り付けていた。私たちはその日、随分日に焼けた。
ヌール・マーシャの案内で、私たちは三日間イスタンブールを回った。私にとっては二度目のイスタンブールだった。初めて来た時は、ラハフとラガド、そしてヌール・アルジジャクリーと一緒だった。
「三猿になって写真を撮ったの、ここじゃなかったかな。覚えてる?」
ブルー・モスクの敷地内を歩いていた時、私はラハフに聞いた。
「写真は覚えてる。だけど、ここだった?」
「ここの裏庭だったと思う。同じ写真を撮ろう。ヌールもいる」
「先生、いい考え。ヌールだけど、違うヌール」
「そう。二枚の写真を並べれば、間違い探しみたいになるだろう?」
ヌールも乗り気になった。私たちは、棺の安置台があったその場所を見つけた。そして正確に同じ写真を撮るために、フェイスブックから六年前の写真を探し出した。
「ラハフが一番左で両目を覆ってる。真ん中のヌールが口で、私が右端で両耳を塞いでる」
私たちは同じ位置に立って同じポーズを作り、近くにいた人に写真を撮ってもらった。その写真は、もちろんサウジアラビアのリヤドにいるヌール・アルジジャクリーに送った。
「あの頃のシリアの話」第三章 再会/イスタンブール 三猿
「あの頃のシリアの話」は、今出版社を探しています。このBLOGでは原稿の一部を紹介しています。
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