イスタンブール 3

ヌールもラハフも、シリアの悲しみをほとんど話さなかった。再会してから三日間、私たちは深刻な話をほとんどしなかった。誰がそう決めた訳でもない。

私とヌールが五分か十分の間だけ二人になった時間がある。ラハフはおしゃれな雑貨屋に入って、いろんな小物を手に取って見ていた。私は店の外でタバコを吸っていた。ヌールは、私の隣にいた。

「ヌールに、聞きたいことがあるんだ」

「何でも聞いて」

「私は、いつまたシリアへ行けると思う?ヌールは、いつシリアへ帰れると思う?何の心配もなく、私がシリアでまた日本語を教えたり、ヌールが誰かに会うために帰郷したり、そういう日が来るとしたら、それはいつになると思う?」

「今から十年以下ということは、ない」

それがヌールの答えだった。即答だった。

「そうか。長いな」

私が聞いたのは、それだけだ。


「あの頃のシリアの話」第三章 再会/三猿


「あの頃のシリアの話」は、今出版社を探しています。このBLOGでは原稿の一部を紹介しています。

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